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The Boy from Lebanon レバノンから来た少年

フランス映画 (1994)

レバノン内戦当時、イランの支援を受けたCSPPA(アラブ・中東政治犯連帯委員会)という組織が、フランス大統領の暗殺を目論み、「関係者の家族のクリスマス・パーティ」に、エリゼ宮の園丁補佐として雇われているレバノン出身の父親の息子キャリムの身代わりに訓練した少年兵を送り込むという映画。少年兵ジラリにはトフィーク・ジャラブ(Tewfik Jallab)が、キャリムにはユネス・ブダッシュ(Younesse Boudache)が、それぞれ扮している。上記に述べたような内容で、これがハリウッド映画なら、派手な銃撃戦にもっていくのだろうが、このフランス映画は全く別の様相を辿る。レバノン南部で1年近くの訓練を受けた後、ジラリは、クリスマスの直前にパリに連れて来られる。組織は、ジラリとキャリムを数日間一緒に暮らすことで、ジラリにキャルムの様子を学ばせようとする。しかし、組織の狙いとは裏腹に、2人の間には友情が芽生え、それは「無二の親友」と呼べるレベルにまで達する。その過程を丁寧に描くことで、「テロ」が主題にもかかわらず、この映画は暖かさと切なさに満ちたものとなった。レバノン内戦は過去の悲惨な歴史だが、今でも隣国シリアでは凄惨な内戦が続いている。そして、無差別のテロは、より過激化している。そうした中で、何も知らない少年が殺人兵器に仕立てられるケースは多い。この映画のジラリも、そうした1人だ。もう一方のキャリムは、11歳という年齢の割には、不良寸前のワルだが、なぜか、真面目一方のジラリと一緒に過す中で、両者は中和していく。そういう意味では、お互いにとって、この出会いは人生の分岐点にもなっている。映画の最後に事後談が出てくるが、それは、その出会いの結果を受け継いだものとなっている〔実話ではなかろう〕。なお、DVDの色調が非常に暗いため、可能な限り明るい色調になるよう修正を加えた。また、この映画のフランス語字幕は存在しない〔正確な訳になっていない可能性がある〕

1986年初頭のレバノン。内戦が始まって10年が経過し、アメリカ主体の多国籍軍が撤退し、内戦が泥沼化していた時期だ。イランの支援を受けたCSPPAは、レバノン南部の拠点に5人の11歳の少年を集め、極秘作戦の訓練を始める。途中2度の苛酷なテストで、作戦の遂行者に選ばれたのはジラリ。フランス語を流暢に話し、銃の扱いが抜群に巧く、そして、命令を疑わない忠実さと冷静な判断力を買われての選定だ。一方、パリでは、エリゼ宮の園丁補佐を務めるレバノン出身の男の11歳になる息子キャリムの奔放な生活ぶりが紹介される。クリスマスの数日前、ジラリは飛行機に乗せられてパリに向かい、キャリムは父親に言われて数日間の「お泊り」に出される(キャリムは、迎えに来たのが秘密情報員だと思い込まされ、ワクワクする)。2人が連れられて行ったのは、パリの街外れにある隔絶したアジト。そこで、ジラリは、①キャリムの体の動かし方や話し方を観察し、②キャリムが逃げないよう注意するよう命じられる。2人は同じ部屋に寝泊りする。キャリムは、ジラリのあまりの変人ぶりに呆れるが(無口、ひどい食事マナー、イスラム教の礼拝サラート)、「警官」だと思い込んでいる女性から、優しくするように言われたのと、ジラリの父親が戦死したと知ったため、徐々にジラリと親しくなっていく。転機となったのは、ジラリがクリスマス・パーティに着て行くスーツを買いに都心まで連れて行かれた時。キャリムは、得意のスケボーで車の後部につかまり無断で同行する。店に入ってそのことに気付いたジラリは、店を出てキャリムを責めるが、「ジラリに街を見せてやろう」と思っているキャリムは、わざと逃げ出す。キャリムが逃げないよう注意しろと言われていたジラリは、仕方なく走って追いかける。追いついた時には、異国の街で道に迷ったジラリは キャリムの言うがままに従うしかなかった。キャリムは良かれと思い、ジラリをパリのあちこちに連れて行く。2人がアジトに戻ったのは夜遅く。大切な極秘作戦は明日に控えている。作戦のリーダーは厳しくジラリを問い詰めるが、ジラリはキャリムの好意を肌で感じていたため、全力で庇う。そして、その夜、寝室で一緒になった2人は、永遠の友情を誓う。翌日、ジラリは、作戦のターゲットがミッテラン大統領だと告げられる。場所は、エリゼ宮で働く職員の子供たちを対象にしたクリスマス・パーティ。そこには大統領もやって来て、全員と握手をする。その時、ジラリは大統領に全弾を撃ち込み、パニックにまぎれて逃げる。会場には、キャリムの父親が案内すること、すべてが終わったら、キャリムは解放するとも告げられる。しかし、ジラリは、出発の寸前、レバノンの訓練時に騙されていた事実に思い当たり、キャリムが心配になり、制止も聞かずに寝室に駆け付ける。そこでは、キャリムが殺される寸前だった。ジラリは男を射殺してキャリムを救い、作戦のリーダーや部下も射殺する。ジラリから父の裏切りを聞いたキャリムは、怒り心頭で父のアパートに戻る。その時、同行して顔を見られたジラリは警察に追われる身となる。キャリムはそんなジラリをレバノンに帰してやろうと全力を尽くすのだが…

トフィーク・ジャラブは、1982.1.9生まれなので、映画の出演時は設定と同じ11歳であろう〔モロッコ人の母とチュニジア人の父の間に生まれたフランス人〕。5年後にTVで一度顔を見せた後、2006年以降TV俳優として活躍し、2010年以降は映画俳優に転じている(主演級)。主役を演じた『Né quelque part』(2013)のプレミアの際、雑誌『エル(ELLE)』のインタビューで、この映画については、①スミス&ウェッソンを振り回すのを観た両親が、学校に戻るべき(映画になど出るべきではない)と判断した、②カンヌ映画祭では、子供なのでナイトクラブには入れてもらえなかったが、ファンだったベルナール・ジロードから いい映画だと褒められ、ヨットに乗せてもらえたことが一番の思い出として残っている、の2点を挙げている。ユネス・ブダッシュは1980年生まれなのでトフィークよりも2歳年上。出演時は13歳になる。これが映画初出演という点はトフィークと同じだが、その後、コンスタントに映画に出演するが、2005年以降は映画・TV界を去っている。


あらすじ

レバノン、1986年の初旬と表示され、爆撃の音を聞いているジラリの顔がアップになる。次に映画の題名が表示される。私のDVDでは “The Boy from Lebanon” だが、正式名称は “Killer Kid”。私が、あくまで前者に拘るのは、そちらの方が遥かに内容に則していると確信するからだ。オープニング・クレジットの背景には、内戦の古い映像が流れる。そして、いきなり 「少年兵の選抜訓練施設」が映される。この施設は、CSPPAの所有物。CSPPAは1986年2~10月にパリで7件、ベイルートで3件のテロを起こしている。施設には、5人の11歳の少年がいる。なぜ11歳なのかは、後で判明する。有力者らしい男が、自分の弟を強引に6人目にしようと担当者に交渉し、少年は嫌々参加させられる。そして、ベッドの前に並んだ少年たちに向かって訓練官が、「覚えておけ。諸君は、もう子供ではない。一人前の兵士だ。諸君は、最優先かつ極秘の作戦のため訓練を受ける。そして、神が1人を選ばれるであろう」(1枚目の写真)。「選ばれるよう、一人一人がベストを尽くして欲しい。我々の信頼に応えて欲しい。如何なるためらいも許されない」。一瞬、目を逸らしたジラリ(Djilali)に対し、訓練官が食ってかかる。「おい、お前! こっちを見ろ! なぜここにいる?」。ジラリは、「兵士になるため」と答える。「敵は誰だ?」。「ユダヤ。異教徒です」。「なぜ、敵なんだ?」。「奴らの兵士が僕の国にいます。国を盗みました。神は、奴らの絶滅を望んでおられます」(2枚目の写真)。「完璧だ。君は、聖戦を理解し、フランス語も上手だ」。これらの会話は、フランス映画だからではなく、目的があってフランス語で行われている。訓練官は、「ここでは名前は不要だ」と言うと、一番左の少年の前に行き、「君は、1番だ」と告げる。ジラリは3番、最後に押し込まれた少年は6番になる。そして、「鞄の中身をベッドの上に出せ」と命じる。「1番」の荷物で、衣服以外のものを床に捨てながら、「ここでは、アラビア語を話してはならん。フランス語だけ使え」と全員に話す。「2番」では、「これは子供用だ」と言って本を捨てる。「完璧に話すことが必要だ。作戦には不可欠だ」。次がジラリの番。持ち物の中から写真を見つける(3枚目の写真。黄色の矢印が写真、赤の矢印は投げ捨てられた物)。「これは誰だ?」。「父です。戦闘で殺されました」。「どうやって死んだ?」。「火炎放射器で焼かれました」。「誰がやった?」。「ユダヤです」。「今は、アッラーと共におられる」。最後の「6番」は嫌々来たので泣いている。鞄も開けていない。「俺をバカにする気か?」。中にはクマの縫いぐるみも。当然床に捨てられるが、6番はそれを拾いにいく。それを見た司令官は、6番を家に帰す。こうして5人の間で競争が始まった。
  
  
  

5人は、「明日から訓練を始める」と告げられ、ベッドに入る。兵士が外に出て行き鍵がかけられ、電気が消される。ジラリは、ベッドに横になり、「あの時」のことを思い出す(1枚目の写真)。父を失ったジラリは、伯父の元に預けられている。ある日の夜、瓦礫の中に立っている伯父のテントに帰ってくると、前に軍用ジープが停まっている。何事かと思ったジラリは、テントの後ろに廻ると、布に開いた穴から覗く(2枚目の写真)。伯父は、食料も薬も服もないからと言って、3000米ドルを要求する〔1986年1月のレートで60万円、現在の約70万円相当〕。相手は、先ほどの訓練施設にいた司令官だ(3枚目の写真、矢印は札束)。伯父は、恥知らずにも、父を失った甥を売ったのだ。翌日、訓練が開始される。最初に、虐殺された市民のスライドを多数見せられ、憎しみを煽られる。その後が、いきなり射撃の訓練。怖くて撃てない少年は、失格として外される。射撃の一番はジラリ。4人が並んで順番に撃つシーンでも、他の3人が両手で構えるのに、ジラリは右手だけで撃っている(4枚目の写真)。弾が当たった場所は、標的の「鼻」。場所も正確だ。
  
  
  
  

ここで、シーンはがらりと変わる。この映画の観客は、何事が起こったのかと戸惑うに違いない。1人の少年が、遊園地の射撃ゲームで、全弾を的に当てて大喜びしている。もらったのはピンク色の身の丈ほどのカエルの縫いぐるみ。こんなものとは思わなかったので、「ナンだよこれ、最悪じゃん」と文句を言うが、「ママか、フィアンセにやるんだな」といなされる。この少年、名前はキャリム(Karim)〔これは本人の発音。フランス人はカリムと呼んでいる〕。年上の悪友2人は、ちょうど良さそうな相手が2人いるのを見て、キャリムに縫いぐるみを持ってガールハントに行かせる。「約束守れよ」「怖気づいたか?」。キャリム:「やだよ」。「ウザいぞ」。「いつもヤなことやらせて、どうせ後はポイ捨てだろ。お前ら奈落に落ちちまえ」。かくして、キャリムは2人の年上の女の子に近づいていく。「やあ、こいつクリストフ・ランベール〔有名な俳優〕、僕、キャリム。楽しんでる?」。「あんたはどうなの、おちびさん」。「2人ともヒマそうじゃん」。「あんた、年上が好みなの?」。「がっかり。そんじゃ行くよ、バイバイ」。その時、女の子の方から声がかかる。「ちょい待ち。あんたのダチ、紹介してよ」。キャリムは、「あいつら、染めた金髪嫌いだし、エイズなんだ」。そう嘘をついて戻ると、悪友2人には、「ゴリラとデート中だってさ。ホントのチンピラだぞ」とこれまた嘘をつく(1枚目の写真)。キャリムは、縫いぐるみを背負い、スケボーでアパートまで戻る(2枚目の写真)。キャリムが階段を上がって行くと、途中で顔見知りのイザベルが倒れている。彼女は、重症の麻薬中毒で、ヘロインの禁断症状に苦しんでいた。キャリムは、イザベルの髪を撫ぜながら、「どうしたの? 注射が要る?」と訊く。「もうダメ。彼、くれなかった」。キャリムは、「これ抱いてて」と縫いぐるみを渡して 助けに行く(3枚目の写真)。
  
  
  

何でも知っているキャリムは、売人がヘロインの包みを隠しておき、客が取りにくる場所を知っていた。そこで、目当ての大型ダストボックスに行き、蓋を開けると、ポリ袋の中に小さな紙袋がいくつも隠してある。キャリムは1つ頂戴する(1枚目の写真、矢印)。キャリムから袋をもらったイザベルは、キャリムが見ないよう離れさすと、袋の中身を水を入れたスプーンに入れて火であぶって溶かし、注射器に入れる。イザベルは、屋上に行き、縫いぐるみと一緒に陶然と横になっている。キャリムは、その横に座ると、イザベルを抱いて髪を撫ぜる。イザベルは、「あたいの郵便受けにCD入れるのやめなよ。いつか捕まっちゃうから」と言う。キャリムは、イザベルの額にキスする(2枚目の写真)。しばらくボーッとしていて回復したイザベルは、キャリムと一緒に部屋に戻る。イザベルは別れ際にお礼のキスをし、「父さんに叱られない?」と心配する。「僕、もう大きいから」。しかし、部屋に戻ったキャリムは、父親からこっぴどく叱られる。「11時10分前だぞ! 何歳だと思っとる!」。「11歳」〔ジラリたちと同じ年!〕。「そんな子供が、こんなに遅くまで出歩くか?!」(3枚目の写真)。この「11歳」の一言で、レバノンとは一見何の関連もなく長々と続いてきたシーンに、何か重要な意味のあることが分かる。なお、この時、父親が見ていたTVでは、シャン=ゼリゼで爆発があり、1人が死亡、29人が負傷したとのニュースが流れている。これはCSPPAによるテロであろう。なぜなら、資料によれば(http://www.start.umd.edu/gtd/search/Results.aspx?perpetrator=2677)、CSPPAは1986年3月20日に死者2名、負傷者28名のテロを起こしている。負傷者の1人が亡くなったとすれば数は一致する。このことから、逆に、ジラリの訓練は2~3ヶ月目に入っていることも分かる。
  
  
  

自分の部屋に行かされたキャリムは、部屋の窓から外を眺める(1枚目の写真・左)。すると、画面はいきなり、擦り切れたキャリムの写真を持つ手に変わる(1枚目の写真・右)。そして、次に、照明の消えたベッドでそれを見ているジラリの顔が映る(2枚目の写真)。関連が分かっていないと、戸惑うシーンだ〔将来 身代わりになる少年を、訓練生に見せている〕。その時、訓練官が、「起きろ」と階段の上から声をかける。「2番、こっちに来い」〔1番は、除外されていない〕。残った少年1が、「何だ?」と訊く。「なぜ、彼なんだ?」と苛立つ。ジラリは「分かるはずないだろ」と冷静だ。少年1が、「お前なんか嫌いだ。自分がトップだと思ってるんだろ。作戦をやるのは俺だ」と言うと、ジラリは「僕は、オネショなんかしない」と言い、取っ組み合いの喧嘩になる。その時、2番の呼ばれた上の階から怒鳴り声が聞こえる。「恥じるがいい! お前なんか要らん。アッラーの軍隊に相応しくない!」。訓練官が駆け下りて来て、「3番、急げ」と命じる。ジラリは立ち上がって訓練官を見る(3枚目の写真)。訓練官についてらせん階段を登っていくと、通路には不合格になった2番ががっくりと床に座っていた。
  
  
  

ジラリが連れていかれた広い場所には、テーブルが1つ置かれ、4人の兵士と、後ろ手に縛られた男が1人いた。訓練官は、イスに座らされた男をつかむとジラリを向かせる。男の顔には殴られた跡や鼻血が見える。訓練官は、「3番、こいつは汚いユダヤの犬だ! スパイだ! 多くのアラブの同胞を殺した!」とジラリに言う。そして、男に向かって、「貴様は、この子の父親を焼き殺した! 死に値する、このくそ野郎!」と怒鳴って唾を吐きかける。そして、ジラリに銃を差し出し、「殺せ」と命じる。司令官は、「こいつは、君の父さんを殺した。撃て! 君の権利だ! 君の義務だ!」と補足する。「さあ、やれ」。ジラリは男に銃を向ける。男がジラリをじっと見る(1枚目の写真・左、矢印は銃)。ジラリは思わず目を閉じ、そして引き金を引く(1枚目の写真・右、矢印は銃)。しかし、弾は発射されず、カチリとだけ音がする。司令官は、「心配するな。君を誇りに思う。本物の兵士だ」とジラリを褒める。そして、男を殴ると、「ユダヤのクズは、さらに尋問してから処分する」と説明する。訓練官は、「これは報奨だ」と腕時計を渡す。さらに、「これを持っていろ。身につけて離すな」と、拳銃も渡される(2枚目の写真、矢印は銃)。「いつの日か、君を英雄にするだろう」「3番、行ってよし」。ジラリが姿を消すと、男は、ニヤニヤしながら「じゃあ、次だ」と言う。全員がグルで、ただテストをしているだけなのだ。このテストに残ったのは、ジラリとあと1人だけ。2人は、徹底的に体力を鍛えられる。出てくるシーンは、腕立て伏せ(3枚目の写真)、ボクシング、ぶら下がり腹筋、バーベル上げだ。
  
  
  

ここからは、ジラリとキャリムの日常が一こまずつ紹介される。最初は、壁一面に落書きのある場所でのキャリムの喧嘩(1枚目の写真)。住環境がいいとはとても言えない。次は、標的ではなく大人の形をした人形を相手にした、より実戦的なジラリの射撃訓練(2枚目の写真)。接近しながら4発連射する。3つ目では、アパートに戻ったキャリムの怪我を、母親が手当てしている(3枚目の写真)。「喧嘩はやめなさい」。「僕のこと、アラブ野郎って呼んだんだ」。最後は、訓練施設内でサラートをする訓練官と残った2人の候補(4枚目の写真)。背後に飾ってある写真の左はイランのホメイニ師。1982年にイランのイスラム革命防衛隊(IRGC)が、ベッカー高原に拠点を設けてヒズボラが結成されたが、CSPPAは その下部組織なのかもしれない。その後、ジラリが夜、ベッドで泣いているシーンや、イザベルがハイティーンのチンピラたちと付き合っているのを見てキャリムが悔し涙を流すシーンもある。
  
  
  
  

訓練施設で、ジラリが 残った1人にもらった時計を見せ、「暗闇でも見えるんだ」と自慢すると、相手も、「見ろよ、俺のもだ」と言う。その後、ジラリが拳銃を取り出し、「ピカピカだ」と構えてみせる。半年以上も2人だけで一緒のせいか、ライバル意識は消え、2人は結構仲がいい。「撃ち損ねしないぞ」。「俺もだ」。2人の姿を兵士がじっと見ている。その時、ドアが爆破され、勢いで兵士が吹っ飛び、銃を持った3人の男が侵入し(1枚目の写真)、うち1人が倒れた兵士を射殺する。そして、2人に向かって、「外に出ろ!」と命じる。ジラリは黙って従うが、もう1人は涙が出て動けないので、男に「とっとと出ろ!」と襟をつかんで投げ飛ばされる。ドアの外には絞首台が置かれ、覆面を被った兵士が2人、首を吊る用意をして待っている(2枚目の写真、矢印は、前回のテストで捕虜のユダヤ人を演じた男)。投げ飛ばされた少年は、「助けて!」と叫び、「お前は死ぬんだ、このクソチビ」と言われると、「お慈悲を!」と泣き叫ぶ。一方のジラリ、髪の毛をつかまれて、「吊られるとどうなるか知ってるか?」「今、教えてやる。前に出ろ、このクソチビ」と言われる。ジラリは、拳銃をさっと取り出すと、撃鉄を上げ、男の顎に当てる(3枚目の写真、矢印は拳銃)。そして、男に「誰にも吊るさせないぞ」と言うと、覆面の兵士に、「全員下がれ、さもないと、こいつは死ぬぞ!」と怒鳴る。これが最終テストだった。作戦はジラリに任されることになった。
  
  
  

一方、パリでは、団地群の中の小学校の前に、黒っぽいBMWが乗りつける。後部座席に乗った男が、横に座ったキャリムの父に、「家族のことを忘れるな」と脅迫するように言う。父親は車から降り、門のところにいたキャリムに寄って行く。「どうしたの、父ちゃん?」。「坊主。何でもない」(1枚目の写真)「用があって来ただけだ。保安上の問題だ」。「ナンなのさ?」。「今は言えない。フランスの国家機密だ。心配するな、危険はない。だが、びっくりする話だぞ。お前は、ちょっとお出かけする。こちらの紳士と一緒にな。2・3日だけ。バカンスだぞ。学校もなし。そしたら、家に帰れる」(2枚目の写真)。キャリムは、「シークレット・サービスだ! すごいや。アジトに行くんだね?」と、大喜びで男に話しかける。男:「そんなものだ。さあ、おいで」。キャリムは、さらに、「誰か殺したことあるの? 拳銃見せてよ」とせがむが、無視され、車に乗せられる(3枚目の写真)。
  
  
  

ジラリは、ベイルートからパリに向かう飛行機に1人で乗っている。同伴者がいないので、首から大きな袋をかけられている。若いスチュワーデスが、お絵描きノートと、クレヨンとお菓子の箱を持って来る。ジラリは、「どうもありがとう、マダム」と丁寧にお礼を言う(1枚目の写真)。首にかけた紙を指して、「それ失くさないようにね。必要な書類が全部入ってるから」と言われ、「はい、マダム」。「オレンジジュース欲しい?」。「はい、ありがとう、マダム」。ものすごく礼儀正しいのだが、普通は、「マダム」でなく「マドモワゼル」と言う方がベター〔年若い未婚女性が、10歳くらいの少年からマダムと呼ばれ、自分はそんなに「年」かと ショックを受けたという話もある〕。ジラリのフランス語も万全ではない。ジラリの隣に座っていた老婦人が、お菓子の箱を指して、「1つ頂ける?」と訊く。「はい、マダム」〔こちらは正しい〕。相手は 箱を開け、「2つ頂くわ。私たちには何もくれないのよ。スチュワーデスって、とてもケチなの」と話しかける(2枚目の写真、矢印はキャンディー、2人の顔が面白い)。「何て、お名前?」。「ライードです、マダム」。偽名を名乗っている。「いい名前ね。パリに行くの? はい、マダム。フランス語に磨きをかけるためです」。「もう1つ頂くわ。あなた、すごく行儀の良い坊やね。とってもいいことだし、今どき稀なのよ。大したご両親ね」。そう言って、今度はチョコレートを取る。ウルサ型の夫人もすっかり満足のご様子。飛行機が空港に着き、職員に付き添われたジラリがターミナルから出てきてBMWに乗り込む。助手席に乗っているのは、キャリムを迎えに来たのと同じ人物。「今日はレイード〔ライードのフランス式発音〕、私はアンス、作戦のチーフ、あっちはバシールだ」と自己紹介する。ジラリは、アラブ人のバシールに、「あの人、アラブ人じゃない」と指摘する〔アラビア語で〕。「心配するな、我々の側だ」。「イスラム教徒なの?」(3枚目の写真)。「俺たちのチーフだ」。ジラリは、かなり用心深い。
  
  
  

パリへと向かう車の中で、チーフは、ジラリに、「君は、半年間彼を学んできた。作戦を成功させるため、数日 彼と過してもらう。彼をよく観察しろ。体の動かし方や話し方だ。作戦当日には、疑われないよう、彼そっくりに振舞わねばならん」〔彼=キャリム〕。「ターゲットは?」。「まだ知るのは早い。まず、カリムに集中するんだ。彼が逃げないよう注意しろ」。「彼から訊かれたら?」。「女性がいる。名前はカディチャ。君の伯母だと言え。レバノンでの生活が厳しいので、両親は君をパリに寄こした。向こうでのことは、訓練所のこと以外、何でも話していい」。車は、パリの都心から少し外れた場所にある立派な一軒家に到着する。ジラリが降りると、それをキャリムが上から見ている(1枚目の写真、黄色の矢印はジラリ、赤の矢印はキャリム)。ジラリを「伯母」が抱擁して迎える。ジラリが上を見上げると(2枚目の写真)、ベランダから見ていたキャリムが微笑む(3枚目の写真)。耳にはヘッドホンを付けている。
  
  
  

ジラリは、3階にあるキャリムの部屋に連れて行かれる。キャリムの観察が目的なので、2人は一緒の部屋に寝泊りする。そこで、ジラリは初めて実物のキャリムと向き合う(1枚目の写真・左と右)。キャリムの気安い軽薄さと、ジラリの生真面目さがよく分かる。カディチャは、「こちらはレイド、さっき話した私の甥よ」とジラリを紹介し、ジラリには、「こちらはカリム、数日ここに滞在するわ」と教える。カディチャが夕食の用意にいなくなると、キャリムは、「その服、決まってるじゃん! 誰が選んだんだ?」と訊く。ジラリは黙って鞄からズボンを出す。「そのジーンズ、すげえ! どこで めっけたんだ?」。「レバノン」(2枚目の写真)。「そこって、サイアクじゃないのか?」。「何が?」。「命がけさ。ベイルートなんだろ?」。「南部の収容所」〔レバノン南部は、シーア派の住民が多数を占めていた地域〕。キャリムが、ジラリの大事な「父の写真」を見て、「マジかよ。これ誰だ?」と訊く。ジラリは、怒ってむしり取る。「怒るなって」。「父さんだ」(3枚目の写真・左)。「僕の父ちゃん、大統領のために働いてる」。「どこの大統領?」。「フランスの大統領だろ。だから、僕がここにいる。保安上の理由さ。父ちゃんは園丁なんだ… 補佐だけど」(3枚目の写真・右)。2人は、そのあと、1階に降りて行く。ジラリは、スケボーを見せたくてたまらない。上手に乗れるのが自慢なのだ。「トロカデロによく行くんだ。連れてってやる」〔エッフェル塔の対岸〕。玄関を出たところで〔門の内側〕、キャリムは、「年は?」と訊く。「11」。「同じじゃんか!」。そして、ボードに乗って段々を降りてみせる。「巧いだろ? 何年も練習したんだ。8つの時からやってる」。ジラリは寒くて耐えられない〔クリスマスの直前〕。その時、カディチャが、「夕食よ」と呼ぶ。「馬でも食べれそうだ! さあ、行こうぜ」。キャリムは、明かるい少年だが、ジラリが真似るのは難しそうだ。ボードに恐る恐る乗ってみるが、すてんと転ぶ。
  
  
  

2人の夕食のシーン。ジラリは、スープを飲むのにスプーンを使わず、皿を傾けて飲む(1枚目の写真・左)。それを見たキャリムは、ちゃっかりそれを真似する。次は、スパゲティ。カディチャは、皿を変えずに、そのまま麺を入れる。「これ好き?」と訊かれたジラリは、「知らない」と答える。キャリム:「食べたことないのか? 君は、レバノン人じゃない、エイリアンだ」。ジラリは手づかみで食べる。キャリムは、さすがに真似ない。「まるで豚だ」(1枚目の写真・右)。振り向いたカディチャは、「レイド、カリムみたいに食べなさい」と注意する。キャリム:「どうかしてるぞ。食べ方、父ちゃんから習わなかったのか?」。「父さんは戦闘で死んだ」(2枚目の写真)。こうジラリに言われると、後は何も言えない。その夜、鼾をかいて寝ているキャリムの隣で、ジラリは泣いている(3枚目の写真)。ジラリは父が大好きだった。
  
  
  

翌朝、まだ暗いうちにジラリはサラートを始める。照明が点いているので、キャリムが目を覚ます。「またかよ! 昨日の夜にやったじゃないか! 取り付かれてるのか?」。「お早う、キャリム」。「何時だ?」。腕時計を見て、「6時じゃないか! イカレポンチだな!」。ジラリは照明を消して部屋を出て行く。そして、TVでニュースを見始める。CSPPAがパリで爆弾テロを行い、死者5、負傷者61という惨事を起こしたというものだが、これは事実ではない。先のサイトにあるようにCSPPAのパリでの最後のテロは、9月15日(死者1、負傷者51)。12月には一切の活動を停止している。ニュースの中で、爆弾は黒のBMWから投げられたと言っているが、実行犯は、チーフのアンスではないだろう。ジラリの作戦の方が遥かに重要ので、摘発される危険など冒さないはずだ。そこに、カディチャが、ルームサービス並みに、朝食をトレイで運んでくる。「カリムはまだ寝てるの?」。「うん」〔共にアラビア語〕。カディチャはトレイをジラリの前に置くと、隣に座る。「ここで、まごつくことは多い?」と訊かれても返事をしない。ジラリはTVにくぎ付けだ。映っているのは、当時のシラク首相(1986.3~1988.5/大統領になるのは1995.5~2007.5)。カディチャは、さらに、「ここは好き?」と訊く。ジラリは、ようやく「ううん」と答える。「口数 少ないのね」。そして、話題を変える。「彼らは、今、怖気づいてる。パリで戦争が起きてる。死の痛みを悟tってるの」(1枚目の写真)。ジラリはずっと黙ったままだ。カディチャは、「カリムが起きてくるまで映画でも観る?」と言って、入れたビデオが『禁じられた遊び』。そのあと、カディチャは、キャリムのベッドサイドまで朝食トレイを持って行く。過剰サービスだが、キャリムはすごく喜ぶ。カディチャ:「レイドは好き?」。「うん。笑わせてくれる。ホントの変人だ」〔共にフランス語〕。「彼にはよくしてあげてね。レバノンですごく悲しい想いをしてきたから」。映画が終わって顔を合わせる2人。ジラリの服装(Yシャツにカーディガン)が子供らしくないので、「服貸してやるよ。それじゃオタクっぽ過ぎだ」と言い、着替えた後で(ど派手な上下)、音楽室に連れて行き、ラップダンスを教える。カディチャに言われたことを実践している。根はいい少年だ。そこにチーフのアンスが入ってくる。アンスは、「君の両親からだ」とクッキーの箱をキャリムに渡すと、「心配するな、すぐ家に帰れる」と言う(2枚目の写真)。そして、「レイド、外に行こう、話がある」と、邪魔者を残して2人だけになる。アンスは、「カリムはどうだ?」と訊き、ジラリがスケボー以外は大丈夫と答えると、それは作戦に不要だと笑う。そして、「作戦は非常に重要だ。みんなが君を注視している。失望させるな」と鼓舞する(3枚目の写真)。
  
  
  

その夜、キャリムは、「見つかったら叱られる」と嫌がるジラリを、1階の居間に連れていく。「見せてやる。こんなの見たことないだろ」。キャリムがケーブルTVをつけると、ポルノ映画が映し出される。ジラリは茫然として画面を見る。「心配すんな、ライード。こんなの当たり前。ここじゃ、みんな見てるぞ」。その夜、ジラリはベッドで大きな声でうなされ、顔は涙でいっぱいだ。心配したキャリムは「どうした?」と声をかける。「泣いて、父ちゃんを呼んでたぞ。悪夢だったのか?」。そう訊くと、優しくジラリの髪を撫ぜる(1枚目の写真)。「心配するな、ここには爆弾も戦争もない。すぐに、みんな忘れちまうよ」。「カディチャに言わないで」。「まさか、僕のダチだろ。モクやるか?」。「モクって何?」。「タバコだ」。そう言うと、ジラリの口に1本突っ込み、自分もくわえてライターで火を点ける(2枚目の写真)。2人はベランダに出てタバコをふかす。キャリムは、2人で一緒にやる楽しいことをいっぱい並べて ジラリの気をなごませる。ポルノやタバコは感心しないが、キャリムの好意は良く分かる。再びベッドに戻った2人。キャリム:「もう平気か?」。ジラリ:「うん」。そして、真面目な顔でオナラをして、ニヤリとして「ごめん」と言う。それを聞いてキャリムは嬉しそうに笑う。こうして、2人のオナラ合戦が始まり、笑顔も最高になる(3・4枚目の写真)。
  
  
  
  

翌朝、ジラリがキャリムにスリング(投石器)を教えていると、門が開いて、アンスがBMWを運転して現れる。アンスはジラリに車に乗るよう指示する。キャリムは、「このまま庭にいる」と言う(1枚目の写真、矢印はジラリ)。アンスは、車を出すが、キャリムはスケボーに乗り、車のバンバーをつかんだまま、こっそり一緒に付いて来いった(2枚目の写真)。2人が向かった先は、服屋。そこで、蝶ネクタイ付きのスーツを買う(3枚目の写真)。値段は750フラン〔当時のレートで18800円、現在の約22000円相当〕。思ったより安物だ〔古着店?〕。ジラリが、ふと外を見ると、キャリムがさかんに手を振っている(4枚目の写真)。
  
  
  
  

すぐに店を出たジラリは、「どうやって ここまで来たんだ? 許されてないんだぞ!」と怒る(1枚目の写真)。キャリムは平気な顔で、「君と一緒にいたい。街に遊びに行こうぜ」と言うと、スケボーで走り出す。店までアンスを呼びに戻ると見失うってしまうので、ジラリは全速で走って後を追う(2枚目の写真、矢印)。ジラリがいないことに気付いたアンスが店の外に走り出た時には、2人の姿はとっくに消えていた。ようやく追いついたジラリは、キャリムをスケボーから突き飛ばす。キャリムは痛がるが、ジラリは「戻るぞ!」と息巻く。「アンチキショー、痛いじゃないか。僕は、戻らないぞ!」(3枚目の写真)。「行こう。アンスが心配する」。「知るか!」。「僕は戻る」。しかし、ジラリには右も左も分からない。キャリムはお見通しだ。「店は、どっちだ?」。「付いて来いよ。まず、腹ごしらえしないと」。
  
  
  

2人は、メトロ2号線の高架橋の見えるファーストフード店の2階窓際に座っている。場所は確定できなかったが、2号線の高架部分は限定されているので、グーグルのストリュビューから判断して、バルベス通り(B. Barbès)との交差部であろう〔シテ島の北3.3キロ〕。キャリムは、「君は、従順過ぎるぞ。もっと気楽にやれ。ブラついてから戻ろうぜ。奴ら、がなるだろうが、ほっときゃいい」と宥める(1枚目の写真)。「ほらほら、チーズバーガー食えよ。冷めたら、ヤバいぞ」。これで、ようやくジラリも食べ始める。キャリムはタバコに火を点ける。「イケるだろ? これからイザベルに会いに行こう。僕の彼女だ」。「ダメだ。戻らないと」。「会ってくれよ。いつか結婚するんだ」。「若すぎるだろ。その子、幾つなんだ?」。「16。いいんだ、愛し合ってるから」。この時、怖そうな店員がやって来て、「おい、ここは禁煙だ。それに、子供だろ!」と消すよう要求する。キャリムは、「消えちまえ。父ちゃんじゃないくせに。勝手抜かしやがって!」。この言葉に激怒した店員は、キャリムを抱え上ると(2枚目の写真)、1階の出口まで運んで行き、「二度と来るな!」と放り出す。ジラリは、「キャリム、もう十分だ。僕を連れて帰れ!」と強く言う(3枚目の写真)。「分かった。ボードに乗れよ」。「何だって?」。「座るんだ。端っこに」。
  
  
  

キャリムは、スケボーの前方にジラリを足を折り曲げて座らせ、後部に右足を置いて、左足で蹴って進む(1枚目の写真)。見ていて一番危なっかしげなのは、凱旋門のロータリーの通過(2枚目の写真)〔凱旋門からは12本の街路が伸びているので、パリ屈指の「運転の難しい」ロータリーとされている〕。凱旋門の前に見える一群の乗用車は、凱旋門の周りを周回している。左のバスは、ロータリーから右折して街路に入ろうとしている。その前をスケボーが横切っている。さすが、パリっ子! 危険なスケボーの旅は、かつてキャリムが約束した通り、トロカデロ広場まで来て ようやく終わる(3枚目の写真)。セーヌ川を挟んでエッフェル塔が間近に見える。
  
  
  

着いた途端にキャリムが言った言葉は、「もう、急ぐのやめよう。どうせ がなられるんだ」。見たこともない場所にいるジラリは、あきらめて従うしかない(1枚目の写真)。キャリムが連れて行った先の1つは、ストリップ劇場。もんろん、入口でつまみ出されるが(2枚目の写真)、並んでいる写真はジラリには新たな衝撃だったろう。次のシーンでは、食料品店の入口で、キャリムが「これ、買ってきて。ここで待ってるから」 とチョコレートとお金を渡す〔店の外にも商品がいっぱい並んでいる〕。「分かったけど、これで帰るぞ」。「カッカするなよ。最高の思い、させてやるから」。ジラリはレジに行ってお金を払う。その隙に、キャリムは店頭のケースからシャンパンを取り出して服に隠す(3枚目の写真、右の矢印はシャンパン、左の矢印はお金を払うジラリ)。その頃、アジトでは3人がイライラして待っている。キャリムとジラリは、クリスマス・イルミネーションで美しく飾られたシャン=ゼリゼ大通りの真ん中を歩いている。キャリムは、盗んだシャンパンをラッパ飲みだ(4枚目の写真、矢印)。「ホントに試してみないのか? クラクラするけど、サイコーだぞ」〔イスラム原理主義の元で訓練を受けたジラリには、飲酒は厳禁。しかし、キャリムが飲んでいるのが「お酒」だと認識していたかどうかは不明〕。キャリムは、強がりを言っていた割には、シャンパン1本はさすがに多かったらしく、噴水まできて全部吐く。ようやく、「帰ろうか」。
  
  
  
  

アジトでは、アンスが計画の中止を決め、部下はベイルートに、自分はテヘランに連絡しようとする〔イランが計画の立案者であることを示唆している〕。その瞬間、ドアが開いて2人が入ってくる。口を開いたのは、キャリム。「やあ。僕たち 街でブラついてた」(1枚目の写真)。アンスは、「カリム、部屋に行ってろ。直ちに!」と命じる。残ったジラリには、「座れ」と命じる。「話を聞こう」(2枚目の写真)。「キャリムが店の外にいて、走リ去るのを見ました。捕まえて連れ戻すしかないと思いました。飛びかかって、ボードから落としてケガさせました。それから、道に迷いました。できるだけ早く戻ろうと努力しました。僕たち、誰にも会っていません。キャリムの責任ではありません。彼は何も知りません。喜んで僕に付いて来ました。ご心配なく。作戦に何ら支障はありません」(3枚目の写真)。ジラリは必死にキャリムを庇う。しかも、自分に関する部分では嘘は付いていない。「すべて事実だろうな?」。「なぜ、嘘をつくんです?」。「分かった、ジラリ、君はよくやった。ここで背広を脱いでから 寝室に行け」。
  
  
  

その夜、ジラリはまた悪夢にうなされる(1枚目の写真)。今度は、父の死の報を聞いて悲しむ母の姿だ。隣のベッドで起きて本を読んでいたキャリムは、目を覚ましたジラリに、「君の悪夢ってキョーレツだな」と言うと、ベッドを降りてジラリの脇に座る。「落ち着けよ」(2枚目の写真)。「僕、嘘ついた。今日の話、全部黙ってた」。「君は、ホントのダチだ」(3枚目の写真)。「君は祈らないのかい? 神は信じてない?」。「さあな。ウザいんだ。母ちゃんは、信じてるけど」。「コーラン、学んだことないの?」。「ないよ」。「僕は、そらで覚えてる」(4枚目の写真)。「分かったよ、君は神の存在を信じてるんだ。でも、同じものを信じてなくても、僕らはダチなんだ。盟約だ。生きてし時も、死せし時も〔A la vie, à la mort〕」。「それ何?」。「2人の間の取り決めさ。何か、交換しよう… 時計がいい。僕らは友達だ、生きてし時も、死せし時も。どっちかがトラぶったら、もう一人が助ける」。「僕たち、永遠に友達ってこと?」。「そうさ。時計を寄こして」。2人は時計を交換する。「バンドはヒドいけど、大事なのは心だ。生きてし時も、死せし時も。君も言えよ」。「生きてし時も、死せし時も」。2人は契りを結んだ盟友となる。この映画は、テロ少年のテロ行為を描くのではなく、テロ少年の友情を描いているのが素晴らしいのだが、その意味では、ここが一番の見せ場。因みに、この “A la vie, à la mort(ア・ラ・ヴィ・ア・ラ・モー)” という言葉は、以前、『Vipère au poing(毒蛇を握りしめて)』(2004)を観た時に印象に残った響きなので、フランス語字幕がなくても すぐに気付いた〔『毒蛇を握りしめて』では、血の儀式に使われた〕。今回も一種の儀式なので、その時の訳をそのまま用いた。
  
  
  
  

朝になって、寝室にアンスが入って来る。早起き+サラートを忘れて眠っているジラリを起こす。「レイド!」。そして、「寝てる時間じゃないだろ。訓練を忘れたか」と注意し、「来い!」と1階に連れていく。次のシーンでは、ジラリは真っ白のYシャツを着ている。アンス:「いよいよ作戦を実行する」。「準備はできています」。「英雄になる時が来たのだ」。ジラリは、手入れの行き届いた拳銃を取り出して装填を確認する。「君の標的だ」。アンスがそう言ってテーブルの上に置いた雑誌『ル・ポワン(Le POINT)』の表紙はミッテラン大統領だった。さらに1枚の写真を渡す。「多くの子供たちでにぎわっている」(1枚目の写真、矢印はミッテラン)。「クリスマスのパーティで、ツリーや食事やプレゼントもある。彼は、全員と握手する。君の前に来たら撃ち始めろ」。「その後は?」。「弾倉を空にしろ。数える必要はない。6発全部撃て。倒れるにつれて腕も動かせ」。「分かってます。その後は?」。「銃を捨て、他の子同様 悲鳴を上げて、走れ。全員がパニックになっている。ベランダの窓から抜け出して門まで走れ。そこで待っている」。「撃たれない?」。「子供でいっぱいだから、撃たない」。「その後は?」。「2時間後、フランスを離れる。明日は、レバノンで英雄だ」(2枚目の写真)。「なぜ、この男を殺すの?」。「彼は、フランスの大統領だ。帝国主義者。悪魔。シオニストと手を組んでいる。彼が死ねば、イスラエルは手を引く。我らアラブの盟友は自由になる」。「キャリムは?」。「終わったら、家に帰す」。「話すかも」。「我々は、いなくなっている。彼のことは忘れろ。義務を果たせ。上着を着るんだ」。そして、さらに、こう付け加える。「後で、会場まで君を連れて行く男に合わせる。彼は何も知らない。何も言うな。彼は、君の目的が盗難だと思っている」。「もし拳銃が見つかったら?」。「調べない。内輪のパーティだ。子供たちは信用されている。君の乗る車の運転手は、そこで働いている。調べられるのは身分証だけだ」。そして、キャリムの身分証を渡す(3枚目の写真、矢印)。「写真は張り替えてある。何か訊かれたら、カリムのように答えろ。君はカリムだ。カリムになりきれ」。
  
  
  

ジラリは、「さよなら、言えますか?」と訊く(1枚目の写真)。「だめだ」。「二度と会えないんですね?」。「そうだ」。仕方がないので、ジラリは、トイレに行くと偽って、洗面台の鏡に石鹸で、「ADIEU MON AMI(さよなら、わが友)」と書く。そして、建物を出て車に向かう。その途中で、キャリムの顔が浮かぶ。そして、ハタと思い当たったのが、訓練の最初のテストで見たユダヤ人捕虜(2枚目の写真・左)と、最終テストで絞首台の横に立っていた男がマスクを脱いだ時の顔(2枚目の写真・右)。2人は同一人物だった。つまり、最初から、ジラリは嘘をつかれていた。組織に対する不信感が一気に押し寄せる。先ほどのアンスとの会話が思い出される。「キャリムは?」。「終わったら、家に帰す」。そして、昨夜、キャリムが言った、「君は、ホントのダチだ」という言葉。「どっちかがトラぶったら、もう一人が助ける」。その時、寝室に交換した時計を置きっ放しにしてきたことを思い出す。ジラリは思わず、「僕の時計!」と叫ぶ(3枚目の写真)。そして、時計を取りに走って戻る。アンスは、「ジラリ、戻れ!」と本名で叫ぶ〔そのくらい必死〕。そして、「バカを仕出かすかもしれん」と言うと、運転席にいた手下と一緒にジラリの後を追う。
  
  
  

その時、1発の銃声が響く。アンスと手下は拳銃を構えて玄関から入り、階段の下で待ち構える。アンスは、「モクター、大丈夫か?」と大声で呼びかける。その時、階段を悄然としたジラリがゆっくり降りて来る。そして、「モクターが殺した。キャリムは死んだ」と静かに言う(1枚目の写真)。銃を下げたアンスは、「仕方なかったんだ、ジラリ。あまりに危険すぎた。カリムのことは忘れろ。君の父上は大義のために亡くなられたんだ」。その瞬間、ジラリは拳銃を抜いて撃ち(2枚目の写真)、弾はアンスの額の中央に当たる。2発目は、手下の心臓に当たる。実に正確な射撃だ。横にいた、カディチャは、見逃して去らせる(3枚目の写真)。
  
  
  

ジラリは、急いで寝室に駆け上がる。ジラリを見たキャリムは、「ナイフで… 僕を殺そうとした」と呟くように言う。ジラリは、先ほど額を撃ち抜いたモクターのポケットから何かを取り出しながら、キャリムに、「上着を着ろ。ここから出てくぞ!」と声をかける(1枚目の写真、矢印は射入創)。しかし、茫然としたまま床に座り込んだキャリムは動こうとしない。ジラリは、キャリムにジャンパーを投げると、体をつかんで無理矢理 寝室から引っ張り出し、階段へ向かう(2枚目の写真)。ジラリは、自分で歩こうとしないキャリムを何とか建物の外に連れ出し、鉄の門扉が閉まっているので、勝手口から外に出る。その頃には、キャリムもようやく自分で走れるようになっていた。鉄道の操車場の中を走っている時、キャリムが急に「離せ!」と叫ぶ。「僕を殺そうとしたな?!」(3枚目の写真)。どこで誤解したのだろう? 取っ組み合いの喧嘩になる。当然、訓練を積んだジラリの方が強い。上に乗ると、「君の命を助けたんだぞ! 君には手を出さないと聞いてた。殺されるなんて思わなかった。奴らの嘘を思い出したんだ。僕は騙されてた」と説明する(4枚目の写真)。
  
  
  
  

ジラリは、さらに打ち明ける。「奴らは、君も騙してた。奴らは警官じゃない。僕は兵士で、大統領を殺すためにここに送り込まれた」(1枚目の写真)。「テロリストなのか?」。「違う、戦士だ」。そして、寂しそうに、「反逆者だ」〔祖国に対する〕と付け加える。キャリムは、「そんなの知ったことか!」と距離を置くが、ジラリは、「君の父さんは知ってる。僕を大統領に合わせる役目だった」と告げる(2枚目の写真)。キャリムは、それを聞いて、初めて全貌を理解する。その頃、キャリムのアパートの母親の元に、父親から電話が入っていた。「彼らは現れなかった。わしらは息子を失った。今から家に帰る。エリゼ宮の担当者に電話しないと」。一方、操車場で考え込んでいたキャリムは立ち上がり、父親と対峙すべくアパートに戻ろうとする。ジラリは、「僕を置いていくな。生きてし時も、死せし時も、だろ!」と言い、2人は一緒に出発する。メトロ2号線の車両の中で、ジラリは「僕の名前ライードじゃない、ジラリだ」と、キャリムに告げる(3枚目の写真)。
  
  
  

アパートに帰ってきたキャリムを見て、殺されたと思っていた父親は狂喜するが、怒ったキャリムは飛びかかって行く。父親に組み伏せられると、「よくも僕を売ったな! 殺されかかったんだぞ!」と食ってかかる。ジラリは冷静に銃を構え、「やめろ! 離せ!」と命じる(1枚目の写真、矢印は拳銃)。「お前は誰だ?」と言う父親に対し、キャリムは、「彼は僕の命を救ってくれた。こんなトコ、二度と帰ってくるもんか!」と怒鳴る。「バカなこと言うな!」。「知らなかったのよ」。そう叫ぶ両親を黙らせるため、ジラリは1発撃ち、バルコニーに追い出して鍵をかける。しかし、父親は帰宅してすぐ警察に電話していたため、パトカーのサイレンの音が近づいてくる。キャリムは、ジラリを助けるためイザベルの部屋まで上がっていってノックする(2枚目の写真、ジラリは用心のため拳銃〔矢印〕を構えている)。中に入ったキャリムは、ドアに耳をつけて様子を窺う。「豚どもは僕のアパートに行った。ここなら大丈夫」と言い、「こっちは、僕のフィアンセのイザベル」とジラリに紹介する。イザベルには、「一番のダチだ。武装してるけど、危険はない」と紹介する(3枚目の写真)。「ひどい顔してるわね。具合が悪いなら横になったら? おまわりは来ないわよ」。「寝室に行こう」。
  
  
  

2人はイザベルのベッドに横になる。イザベルは、隣の部屋で大麻タバコを作っている。ジラリが泣き始める。「どうした?」。「死にたくない〔Je ne veux pas mourir〕」。「死ぬはずないだろ。大丈夫さ。ここにいるなんて誰も知らない」。「もうお仕舞いだ〔C’est fini〕。破滅だ〔Je perdue〕。僕はお尋ね者だ〔Ils sont tous après moi〕。二度とレバノンに戻れない」。キャリムは、ジラリの首に腕を回すと抱き寄せる(1枚目の写真)。友情溢れるシーンだ。「怖いよ〔J'ai peur〕」。「どうやるかは決めてないけど、あしたレバノンに向かうぞ」。そこに、大麻で眠くなったイザベルがやってきて、ジラリの横に寝る。TVでは、キャリムの父がニュースに出ている。カディチャが逮捕されるところも映る。TVを観ているのはジラリ1人。その目が驚いたように大きく見開かれる(2枚目の写真)。自分の似顔絵が、大きく写し出されたのだ(3枚目の写真)〔似顔絵を作ったのは、恐らくキャリムの父親だろう。しかし、父親は、ジラリが拳銃を持っていたことは知っていても、大統領暗殺の実行犯だったとは知らない。息子が殺されかけたことは知っているが、その息子が、ジラリは命の恩人だと言っている。なぜ、11歳のジラリが大々的な手配を受けるのか納得できない。カディチャが逮捕された理由も分からない。誰とも接触はなかったので、自首でもしない限り、警察はその存在すら知らないはずだ〕
  
  
  

翌日の夕方、2人は女装し、イザベルの両側に付いて、アパートの横に設けられた警察の検問を突破する(1枚目の写真)。その後、2人は夜になってから、サン=マルタン運河(canal Saint-Martin)脇の有料公衆トイレで化粧を落とす(2枚目の写真)。「これから駅に行って、マルセイユ行きの列車に乗ろう」〔マルセイユ行きはパリ=リヨン駅から出る〕「後は、貨物船で密航する。レバノンまで隠れてりゃいい。映画で観たんだ」。「やれると思う〔Tu crois〕?」。「ああ」。2人がトイレから出てくると、イザベルが不良グループに絡まれている(3枚目の写真、右の矢印がトイレ、左の矢印がイザベル)。ジラリは、不良の1人に拳銃を突きつけて退散させる(4枚目の写真)。
  
  
  
  

3人は、そこからパリ=リヨン駅まで歩いて行く(1枚目の写真)。左正面に見えるのは運河の歩道橋だが、パリ市内のサン=マルタン運河には似たような歩道橋が5-6橋架かっている。しかし、最も近い橋でもパリ=リヨン駅までは直線距離で2キロ以上ある。1時間弱はかかったに違いない。3人が駅に入って行くと、構内アナウンスが発車を告げている。「18番ホームのマルセイユ行きは発車します」。3人はコンコース目がけて全力疾走する(2枚目の写真)。しかし、3人がホームに入った時、列車はもう動き始めていた(3枚目の写真)。キャリムが、「次のマルセイユ行きは何時?」と駅員に尋ねると、翌朝の7時12分という返事。「座っていよう。朝、乗ればいい」。しかし、駅員は、ジラリの顔に気付いてしまった。構内に戻った駅員が電話で通報する姿が映される。
  
  
  

ホームの端に3人が肩を寄せ合って座っている。ジラリは、悲しそうに、「僕の国じゃ、こんなに寒くない。いつも太陽が輝き、砂浜があって… 静かなんだ。ここは居心地が悪い。故郷からすごく離れてる。もう十分だよ、キャリム。僕はレバノンに帰りたい」と弱音を吐く。キャリムは、「今夜はムリだ。明日だ」と言うが、ジラリはさらに続ける。「もう息ができない。分かるかい? ここの空には星が一つもないんだ」。ジラリは、真っ直ぐ前を茫然と見つめているが、キャリムは周辺を窺い、大勢の狙撃班が近づいてくるのに気付く(1枚目の写真)。そして、「一番のダチ」にそんなものを見せまいと決心する。「目を閉じろよ。想像するんだ… 太陽が輝き、肌が焼ける。砂浜だ… 海の香りがするだろ。砂浜が広がってる。海には… 波が打ちよせてる。泳いだっていいんだ。寒いけどな。暖かいって、何て素晴らしいんだ。そして夜になる。星が見えるだろ? こんなにたくさんの星、見たことないや」(2枚目の写真)「砂浜に寝転んで、星の瞬くのを見ていよう。そして、眠るんだ。安らかに」。ここで映画は終る。内容に相応しい詩的なラストだ。最後に、事後談が流れる。「キャリムとジラリは現在17歳。ジラリは逮捕後収監され、自白し、無罪と判定された。彼は、フランスの政治難民センターに住み、レバノンには帰らなかった。彼は学校に通い、今年、バカロレアを最優秀で合格すると思われている。彼は、キャリムと会い続けている。キャリムは、仕事に就いていないが、最初のラップ・アルバムのレコーディングを夢見ている。イザベルは麻薬の過量服用で2年後に死亡した」。
  
  

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